「すべて」が現場につながる① -シミュレーションは学習への姿勢から-
※この記事は2018年4月に発刊された広報誌"SimSim vol.3"に掲載された記事の完全版です。
京都橘大学看護学部でシミュレーション教育に携わる野島敬祐先生とマルティネス真喜子先生。京都科学のシミュレータ"SCENARIO"で配信中の実習前の学生向けシナリオをご監修いただいています。
今回はお二人に、シナリオシミュレーションを行う際の心構えや、SCENARIOを使ってのご感想まで、たっぷりお話しを伺いました。
京都橘大学 インタビューシリーズ
【第1回】「すべて」が現場につながる①(★この記事です)
【第2回】「すべて」が現場につながる②
【第3回】シナリオ作りとそのゴール
学生へのシミュレーションで意識していること
『人によりそう看護』の実践
野島 京都橘大学看護学部には『人によりそう看護』というテーマがあります。それはテクニカルな看護技術以外のところを指している部分があって、言語化しにくいような動作や思考もシミュレーションや授業の要所要所で伝えるようにしています。例えば部屋を出るときに、一度、患者さんの方を振り返って、忘れものとか危ないことはないかを見るというのは教科書には書いていない。でもそういう一つ一つの動作が大事だと思っています。
マルティネス ほんとは自然とできるに越したことはないんですが、動作としてシミュレーションで一回やっておくと、どういいのかを考えるきっかけにもなる。
野島 今までは現場に出て気づいていくことだったんですけど、出る前に教えられるなら教えたい。シミュレーションでやってそこを感じてもらえたら、現場に行っても普通にできる、と。
『学習態度』を身につける
野島 学習態度について、(学生の事前学習の差があるのは)最初は仕方ないかなと。しっかり事前学習をした学生はしっかり動けて楽しくできる、友達同士で話もできる、ということを印象として残す。それを見てあまり事前学習をしてこなかった学生に、「ああやってきたほうがいいな」というのを自分で思わせたいというのがあるので。
マルティネス まずいのは、実習でそれをやっちゃうんですよね。実際に病院に行って事前学習をしている学生としていない学生で、実習の場で差がでる。だから、できればその前段階(学内でのシミュレーション)で気づいてほしいんですよね。しっかりと学習を積んで、そうでないとパフォーマンスに出ないんだっていうことがシミュレーションで理解できるのは、実習に効果的に臨むためにはいいステップになると思います。
野島 シミュレーションの場所だけじゃなくて、全部。学習姿勢からの練習になります。(シミュレーションを通して学生が)効果的な事前学習ができるようになったとか、カンファレンスでよく発言するようになったとか、そういうところはあるのかなと思います。
グループだからこその学びを
マルティネス デブリーフィングの時には、グループで考えて解決してもらう方向にもっていきます。時間はかかりますけどね(笑)
野島 でも時間をかけないと、実習や臨床現場では許されないことがいっぱいあるんです。患者さんの安全のために、教員がブレーキをかけることが沢山ある。学内は全くそれがないので、失敗しても全く構わないし、自由にやってほしいというスタイル。グループの一人が時間的にもスキル的にもシミュレーションが途切れても、次の学生がそれをカバーして、途切れた学生はそれを見て学べばいいというか。グループで目標を達成していくステップが踏めればいいと思っています。
マルティネス 実習に行っちゃうと、それぞれ別々じゃないですか。自分のメンバーが患者さんとどうかかわっているかって見れないんですよ、結構。だから、シミュレーションの場で皆と見ながら、「患者さんのところに行くときはこうするんだ」とか、「あの子がしたああいう動作ってこうだから患者さんにとって良かったよね」とかっていう、他の学生の動きを見た上で振り返ることができるのは大きいと思います。そこから自分もいいところをもらったりして。実習だと得られないところをシミュレーションで補えているところは大いにあるかな、と。
野島 ほんとにプチ実習ですよね。
マルティネス どうする?って皆で考えながら、ちょっとずつ患者さんのそばにいられるようなトレーニングができればすごくいいかな、と思います。
SCENARIOのこと
行動の記録が意見交換のきっかけに
野島 行動記録が残るって聞いたときは感動しました。ファシリテートは学生の行動の観察をすると同時に、記録もしなくてはいけない。SCENARIOができる前は、沢山の紙に殴り書きする作業をファシリテートしながらしていました。でも、そうすると抜けが出てきたりとか、「あ、これ言うの忘れた!」という経験を何度もしてきたので。
マルティネス 記録が残ることのいいところは、SCENARIOを使えば学生とみんなと一緒に(モニターで) 振り返ることができて、同じポイントを一緒に見ることができる。
野島 みんなが思いだせるというのが良い。本人が覚えてなくても、「あーこんなことしてた」「してたしてた」って。
マルティネス 今までデブリーフィングはどうしても一方的だった印象があるので。紙媒体でチェックしていると、ファシリテータはメモを見てコメントするんですけど、学生は言われるだけじゃないですか。学生も、「ああ」「うん」みたいな(笑) それがパッと開けて、ディスカッションできる機会になってきました。「よりよくしていくには」という風に持っていきやすい。
野島 100%、SCENARIOで記録するのは無理ですけどね。結局タブレットも紙も持ってしています(笑) やっぱりアイコンとして準備されていないような思わぬ行動が学生としてはあって。そこは残しときたい、言葉にしなきゃ残せない、っていうときはやっぱり紙にメモすることも…。でも、やっぱりあの画面があると助かる部分がありますね。
教育者の手助けとしてのツール
野島 動機付けとして関心を引くという意味ではいいモデルと思います。学習者が興味を持たないと全く意味がないので。一方で、学習効果を高める一つのデバイスでしかないのが事実で、やっている内容は目新しいものでも何でもない。どちらかというと学習者というよりも教育者の手助けをしてくれる要素も結構大きいのかなと思います。あまり経験のない人がファシリテータをするときに、いいところは全部褒めようとするし、悪いところは全て指摘しようとして、学習目標に沿った内容で進めるのが難しいときがある。そうなったときにSCENARIOのソフトがあると、タブレットにある内容通り進めれば、最低限の振り返りを確実にできるので、絞った目標を達成する進め方としてあるのはいいと思いますね。
人数・台数についての悩みはありますが、それに対しては、学生に自由に使ってもらえるよう進めていこうと思っています。教員がつかなくても(ソフトウェアにチェックリストがあるので)タブレットがあればペアでチェックしあえる。管理だけちゃんとしてもらって、使いたいって学生に使っていってもらうのはしていますね。
SCENARIOの今後の課題
マルティネス シナリオを作っていて思ったのは、得手不得手があることですね。例えば日常生活援助。そういうのが看護で実際やっていくところなので入れたいんですけど、難しかったり。学生は色んな患者さんに出会うだろうし、色んな患者さんの設定ができると用途が広がる。
野島 異常を表現できるのはとても大事で、SCENARIOは内面の異常は表現できても外見の物理的な異常が表せないので、そうするとSPになってくる。使い分けが重要だと感じています。
今回は、京都橘大学看護学部のお二人に、シミュレーションを行う上での心構えをお話しいただきました。
第2回は「すべてが現場につながる② -知りたい!シミュレーションのコツ-」!シナリオシミュレーションにおける具体的な工夫をお話しいただきました。

京都橘大学は、国際、人文、教育、社会、医療系の幅広い分野が集う総合大学です。二〇〇五年四月、関西の四年制私立大学でもいち早く設置された看護学部では、充実した教員陣と独自のカリキュラムにより九一七人の卒業生を輩出。自らの知性や感性を磨き、倫理観を養うことで看護の本質を究め「人によりそう看護」を実践できる看護職者を養成しています。また、大学院看護学研究科博士前期・後期課程を設置し、新たな看護を創造できる研究者・教育者・管理者や高度な看護実践者を育成しています。

野島 敬祐 先生
京都橘大学看護学部 専任講師
三重県立看護大学看護学部を卒業し、看護師・保健師免許を取得。関西医科大学附属枚方病院、洛和会音羽病院京都ER救急救命センターで看護師として勤務した後、宝塚大学看護学部で助手・助教を経て、現職に至る。その間、大阪府立大学大学院看護学研究科で博士号を取得。現在は救急・災害看護学や看護基礎教育に関する研究活動及び教育活動を行っている。

マルティネス 真喜子 先生
京都橘大学看護学部 専任講師
鳥取大学医療技術短期大学部卒業後、国立国際医療センター(現国立国際医療研究センター)のICUで勤務。その後、JICA青年海外協力隊看護師隊員としてエルサルバドルの国立病院内ICUで看護活動を行う。看護専門学校での教員、京都橘大学看護学部で助教を経て、現職。三重大学大学院医学系研究科博士後期課程在学中。国際看護及び看護基礎教育に関する研究、教育活動を行っている。